《住まいに抱かれる》
鳥取市の郊外にあります古い民家を改修させて頂きました。この地方特有の赤い施釉瓦が載る堂々とした造りです。
しかしながら内部はもともと建具で間仕切られていた間取りも壁で独立した部屋に細かく区切られ、生活は混乱を生じているご様子です。台所はわずかばかりの土間片隅に設けられ、食堂との50cmの段差の上がり降りも大変な状態でした。
改修に際しては、構造に配慮しつつ不要な間仕切りを取り払って拡がりのある平面の形に戻し、障子・襖などによって柔軟な仕切りとしています。台所は居間食堂と同じ床面に持ち上げ、オープンな形で設えました。もともとこの部分は広い土間であったと思われます。天井板を外してみますとやはり黒々とした立派な梁が隠れています。天井も高く張り直し、豊かな拡がりの中、現しとなった太い梁は本来の居場所を取り戻して自信に満ちた表情です。この梁は玄関へもつながり、来客を出迎えています。
居間食堂のあります母屋にL字状に増築されていました寝室部分は、母屋の古色然としたたたずまいとは対照的に生地を生かした明るい造りとして大きく改修を施しました。この個室群と、母屋と蔵とでコの字型に囲われた中庭は床をウッドデッキとし、あたかも青空が天井の落ち着いた室の趣です。
竣工の春の夜、この中庭で建築主・工事の方々と海の幸山の幸を頂き、ほろ酔い気分にいつしか時を忘れ、ふと気が付けば住まいに悠然と抱かれている、そのような思いにひたったのでした。
→ 改修前の様子はこちらでご覧いただけます。